鎧を捨てても心は武者か… 第3話

落武者敗走記

雨の夜はヤバいぜ(後半)


当事者でも目撃者でもない。たまたま現場に通りかかっただけだ。
それが今は私が彼をはねたようにしか見えない。 自分自身にもそうとしか見えないのだから通りかかった人達には例外なくそう見えたはずだ。
警察がくれば厄介な事になる。誤解が解けても整備不良でお咎めがあるかもしれない。

救急車よ先に来てくれ。怪我人を運び出してくれ。

願いは聞き届けられた。
先に着いたのは救急車だ。 ストレッチャーに乗せた怪我人を救急車へ移動。前方の障害物は無くなった。
救急車が現場に入った時点で交通は完全に止まっている。このタイミングだ!
ジェミニに乗り込みゆっくりスタート。
だが次の瞬間、解放していた窓から飛び込んできた腕が私の腕を掴んだ。 救急車乗務とはいえ消防署常駐の現場要員。鍛えた筋に強い意志と怒りがこもる。
逃がすまじ!許すまじ!
白衣にヘルメットの金剛力士像だ。 私は恐怖から、いや自分が置かれた状況が惨めで情け無くて見上げることができなかった。 見上げれば顔は吽形だろうか。
 

予想された展開ではあるのだが、予想していたのは私だけではなかった。
すかさず割って入たシャレード君が誤解を解いてくれた。君はイイ奴だ。車の窓にカーテン引いてさえいなければ

片眼のダークスーツのようなクルマ しかしのんびりしている訳にはゆかない。じきに警察が来る。車の行列が止まっている中、現場からコソコソ立ち去る片眼のダークスーツのようなクルマを目撃されたら、また厄介なことになる。

微速のまま最初の交差点を曲がり現場の視界から消える。
寮までもう少し。木々の間から明かりが見えるところまで来た。誰も追跡してこない。
ここまで来れば…
私は一体何から逃げているのだろうか…いや、逃げなければならのか?
その時ようやく気づいた。ハザードランプが点滅しっぱなしだった。
 この事故はニュースにも新聞にも出なかった。だから怪我人が助かったか否かは分からなかった。 事故の関係者でも当事者の関係者でもない私が警察や消防に問い合わせるのもおかしな感じがした。 なにしろ現場では関係の無い自分が巻き込まれた状況を愚痴っていたのだから今さら関係者ぶるわけにもいかんだろう。 彼の安否が分からないまま、しかし脈を診たときの暖かいしかし全く張りのない皮膚の感触だけがいつまでも指先にのこっていた。

続く
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